まだ日が昇らないうちに家を出て、朝練の為に部室に来ると、
いつもは殆んど見ない人影がチラホラ・・・
今日はえらくみんな早いんだな?
と思っていると、何処からともなく現れた女の子に小さな紙袋を差し出された。
「大石先輩!コレ受け取って貰えますか?」
「えっ?俺?」
「はい!」
「そう。ありがとう」
急な呼びかけに、あまり何も考えず笑顔で答えて、その小さな紙袋を受け取る。
「ありがとうございます」
女の子は頭を下げて待っていたらしい仲間の所へ戻っていった。
一体何だったんだろう?
と思いながら、部室の鍵を開けていると、また後ろから声をかけられた。
「私のも受け取って貰えますか?」
「えっ?あぁ。ありがとう」
部室の中に入って、先ほど貰ったプレゼントらしき物をロッカーに入れて、着替えているとどんどん外が騒がしくなってきている。
ホントに今日は一体何なんだろう・・・?
まぁいいか・・・朝練前にしておきたい事もあるしな・・・
外の様子は気になるけど、練習が始まる前にやっておきたい事がある。
俺は椅子に腰掛けて部誌に目を通した。
そして記入しようとペンを持った時に外でキャー!という歓声が湧き上がった。
キャー?
ホントに一体何なんだ?
そう思っていると、部室のドアが開いて、タカさんが入ってきた。
「おはよう!タカさん」
「おはよう。大石!今日は凄いねぇ」
えっ?凄い?
見るとタカさんの手にも紙袋やら包装されたプレゼントらしき物が握られている。
「凄いって何が?凄い・・・」
そう言いかけた時に今度は乾が入ってきた。
「おはよう」
「あっおはよう。乾」
乾を見ると乾も同じように紙袋やプレゼントを持っている。
ホントに今日は一体何なんだ・・・?
「タカさん。さっきの話なんだけど、凄いって何が凄いんだ?」
ロッカーを開けて着替え始めたタカさんに話しかけた。
「あぁ。女の子達だよ。チョコやらプレゼントを持って部室の周りにたくさん来てるよ」
「チョコ?」
「あぁ。そうだ。今日はバレンタインだぞ。大石」
乾がノートに何かを記入しながら、話に入ってきた。
「ちなみに、不二と手塚はまだ外で掴まっている。あの様子だと暫く部室にも入れないな」
そうか・・・今日はバレンタインだったのか・・・
すっかり忘れていた・・・
じゃあさっきの歓声は不二か手塚が現れた事によるものなのかな・・・・?
そうだとしたら・・・ホント凄いな・・・
「おはようございます・・」
「おはようございまーす!!」
今度は海堂と桃が慌ただしく入ってきた。
「アレ何なんっスか?1年の女子ばっか。部長と不二先輩大変な事になってましたよ」
挨拶もそこそこに桃が外の状況を話し始める。
それを聞いた乾が眼鏡をクイッと持ち上げて、ノートをとじて説明し始めた。
「それはだな・・・一年生の女子が二年の俺達に校内で接触しようと考えると、教室まで出向く事は中々出来ない。
故に必然的に部活の始まる前もしくは部活後に集中するという事なのだろう・・・
しかしこのままだと今日はまともな練習は出来ないかもしれないな」
なるほど・・・
相変わらず乾の説明には納得させられるなって関心していたら、乾はそのまま黙々と着替えている海堂の横に立った。
「・・・で、海堂は今何個貰ったんだ?」
「ハァ?」
乾・・・お前・・・
少し呆れながら乾と海堂のやり取りを見ていて、俺はようやく重大な事に気付いた。
そういえば・・・まだ英二が来ていない・・・
手塚と不二は外で掴まっているらしいが、ひょっとして英二も捕まっているのだろうか?
英二は凄くもてるからな・・・・
同じ年の女の子はもちろんの事、年下からも年上からも好かれる英二。
明るくて、元気で、甘え上手で、とびきりの笑顔を持つ英二。
英二の屈託の無い笑顔を思い出した後、去年のバレンタインの事を思い出した。
そういえば去年もたくさんチョコを貰って、自慢してたよな・・・・
平気な顔でたくさんの貰ったチョコを見せられた時は、本当にへこんだ・・・
ひょっとしてこの中に英二の彼女になる子がいるのかも知れないって思うと 胃がキリキリして・・・
その事を直接英二に聞く事も出来ずに、ずっとモヤモヤしながら1ヶ月過ごしたんだったっけ・・・
結局英二は誰とも付き合わず、今や俺の恋人なんだけど・・・
英二はお菓子好きだからな・・・
俺って恋人がいても やっぱりチョコは貰うんだろうな・・・
既に2個受け取ってしまった俺が言うのもなんだけど・・・
自分のロッカーを見つめて、小さくため息をついた。
しかし・・・今日がバレンタインだなんてホント油断していたな。
俺にとってのバレンタインはあまりいいイベントとはいいにくい。
面と向かって、ダイレクトに好意を伝えられてもどうしていいかわからないから・・・
特に英二の事が好きって気付いた去年なんて、告白付きのチョコは正直言って、ただ申し訳ないって気持ちしかもてなくて・・・
それさえもうまく伝えられなくて・・・
結局戸惑って、ごめん・・・としか言えない。
ホントに辛かった。
また今年もそんな事になるのだろうか・・・?
出来る事なら、もうこれ以上はチョコを受け取らずに済めばいいんだけど・・・
ハァ〜〜〜・・・・
早くこいよ英二・・・・
大石は普段忙しくてバレンタインなんて忘れてるだろう・・・と勝手に解釈。
そして相変わらず何処か抜けてる大石・・・ってだから私がそう書いて・・・
そんな感じで次行ってみよう☆(残り4ページ)